「そこで私は『これだけは守ってほしい』条件を3つに絞りました。そして条件に納得してくださったプロデューサーからのみ、仕事を引き受けるようにしたのです」(撮影:洞澤佐智子)
昨今のエンターテインメント業界では、国内外を問わず多数のハラスメント問題が取り沙汰されている。なかでも、映画やドラマでヌードになったりラブシーンを演じたりする際の、俳優の心身の負担は計り知れない。制作陣と俳優との仲介役「インティマシー・コーディネーター」は、2022年の新語・流行語大賞にノミネートされるなど、いま注目を集める職業である。浅田智穂さんは国内初のインティマシー・コーディネーターとして、2年半前より日本の映像作品に携わるようになった(構成=玉居子泰子 撮影=洞澤佐智子)

<前編よりつづく

これだけは守ってほしい3つの最低条件

アメリカにおけるインティマシー・コーディネーター導入は、ハリウッドで起きたセクハラ騒動(#MeToo運動)で拍車がかかりました。

アメリカには全米映画俳優組合と米国テレビ・ラジオ芸能人組合が合体したSAG-AFTRAという労働組合があり、労働環境や条件に厳しいルールが設定されています。

でも俳優の労働組合もない日本で、ただでさえ私の存在に現場が戸惑っているような状態なのに、性的なシーンについてだけアメリカの規則を持ち込むのは現実的ではありません。

そこで私は「これだけは守ってほしい」条件を3つに絞りました。そして条件に納得してくださったプロデューサーからのみ、仕事を引き受けるようにしたのです。

ひとつは、「性的シーンについて、必ず事前に俳優の同意を得ること」。

脚本が、撮影直前に変更されるのは現場ではよくあることです。SAG-AFTRAでは変更が出た場合、撮影前から一定時間までに申し入れなければならないと定められていますが、いまの日本の現場に取り入れるのは難しい。

そこで、せめて「事前に同意を得ることを絶対条件にしましょう」とお伝えすることにしました。変更が出るたび、露出範囲や演出内容を細かく確認し、必要に応じて同意書が作られます。