「織姫」と「彦星」は切ない悲恋に悩む二人ではない!?
ひとつ、私の講演ではわりと受けがよい話をします。夏の大三角形をなすベガとアルタイルを「織姫(おりひめ)」と「彦星(ひこぼし)」に見立てて、1年に一度、七夕の日だけ会えるという言い伝えがあるのはご存じのとおりです。
しかし、じつは現実には、このカップルが出会うのはかなり厳しいのです。というのも立体的な距離では、両者は14.4光年も離れているからです。会うどころかメールのやりとりをするにも「元気?」と送って「元気だよ」と返ってくるまでに、光の速さでも約29年。若い二人も初老を迎えてしまいます――
とここまでは、よくある七夕ネタなのですが、本当にお話ししたいのはここからです。
永遠とも思えるほど離れたこの二人、じつは「みなみのうお座」という星座の方向から見ると、いつ何時もベッタリくっついていて、まさにラブラブなのです。この星座名にピンとくる人は多くないでしょうが、フォーマルハウトという、日本では南の空にぎりぎり見えるかどうかという1等星をもつ星座です。
これも星座は視点によって見え方がまったく異なるという好例で、切ない悲恋に悩む二人が、急にバカップルに見えてしまう! というお話でした。
もし、天の川銀河に共通の、立体星座の公式カタログをつくっておけば、それを参照することでお互いの「太陽」の位置を飛躍的にスムーズに特定できるようになります。
でも、そんなものをつくるのは大変だろうと思われるでしょう。ところが、そうでもないのです。
図1‐4は、私が試しにつくってみたオリオン座の立体星座です。3D画像を簡単に作成できる「Tinkercad」というアプリを利用しました。一見、きれいに配列しているように見える星々が、横から見るとかなり凸凹(でこぼこ)しているのがわかります。
とくに、おなじみの3つ星の実際の位置関係には驚かされます。私はこうした立体星座を触って実感できるフィギュアのようなものを製作して、イベントで一般の方に見ていただいたりもしています。
最初は「なんだこれは?」と訝(いぶか)しがるお客さんも、視点を変えたときの星座の変化に、新しいことを知ったときの「アハ!体験」のような感動を覚えるようです。
要するに、素人の私にもこれだけつくれるのですから、宇宙ステーションにはぜひ、天の川銀河の立体星座カタログを常備していてほしいものです。
※本稿は、『宇宙人と出会う前に読む本 全宇宙で共通の教養を身につけよう』(講談社)の一部を再編集したものです。
『宇宙人と出会う前に読む本 全宇宙で共通の教養を身につけよう』(著:高水裕一/講談社)
「あなたはどこから来ましたか?」
さまざまな惑星の宇宙人が集う社交の場で、もしそう尋ねられたら、あなたならどう答えますか?
本書は、惑星際宇宙ステーションに地球チームの一員として乗り込んだあなたが、そこで遭遇する宇宙人が繰り出すさまざまな突拍子もない質問に答えていくうちに、宇宙で本当に必要な科学知識とは何か、宇宙的思考法とはどういうものかが、自然とわかってくるように構成されています。