コミュニケーションの極意は「気づかい」

銀座のクラブは日本の文化といわれるコンサバティブな社交場。とはいえ、時代の進化とともに大きく様変わりしたものもある。顧客とのコミュニケーションツールだ。

40年前は自宅の固定電話からお客様の会社へ電話をかけていました。当時は外出された後は、伝言の術がなかったので、同伴の時に待ち合わせの場所を間違えてしまい、お客様とすれ違ってしまったこともありました。(「三越のライオン前で」と約束、三越は銀座にも日本橋にもあるので、別々のライオン前で待ち続け、結局会えませんでした…涙)

今は携帯電話やスマホからメールで連絡を取り合うことができるようになりましたが、便利なのも善し悪しで、時を選ばず頻繁に営業メールを入れてしまうスタッフが目立つのも困りものです。マメ過ぎて迷惑になりかねず、これではお客様が辟易してしまいます。敬語を用いずカジュアルに、絵文字を多用する文面を快く受け止めてくださるとは限りません。いずれにしても相手に対する気づかいに欠けているといえるでしょう。ここは品性が問われるところです。

私はコミュニケーションの極意は「気遣い」と考えています。こんなことをして差し上げたらどう思われるかな? どうすれば喜んでいただけるのかしら? と心に思い描くことがサービス精神、ひいては一流のおもてなしに通じているのです。メール中心の時代だからこそ、手書きの手紙が心に残るということもあるでしょう。とはいえ出せばいいというものではありません。一時期、手紙の代筆屋というのが流行っていたことがあります。お客様が「こんな手紙が来たよ」と見せてくださったのですが、「私は離婚して子どもを抱え……」などと不幸をアピールし同情を引くようなことばかり書かれていました。しかも、名刺だけで一度も会ったことが無い方々全員に同じ文面だということがバレたそう。本人は誰に出したのかも把握できていないのです。そんな営業本意の意味のない手紙なら出さないほうがいいな、と勉強にもなりました。

私は来店してくださった一人ひとりのお客様に直筆で手紙を書くことを日課の一つにしていますが、その方とのエピソードを添えるのがマイルールです。素敵だと思ったこと、会話を通じて心に残っていること、勧められた本を読んで感じたこと、いただいたお言葉にどれだけ励まされたか、どんなに再会を心待ちにしているか……。思ったことを素直に認めるようにしています。

 

4月に出版された『銀座のママに「ビジネス哲学」を聞いてみたら』(「ワニブックスPLUS新書」)は、由美ママの48のマイルールで構成されている。ビジネス哲学でもあり、人生哲学としても読み応えのある1冊だ。

あれこれと偉そうなことを書いていますが、どれもこれも失敗を重ねて習得したことばかり。余計なことを言って人を不快にさせたり、世間知らずで恥をかいたり、良かれと思ってしたことが空回りして悲劇に転じてしまったり、悲しいこともありましたし、悔しいこともあったし、なんでこうなってしまうの? と落胆したことも多数ありましたが、すべて人生の肥やしとなりました。

由美ママを慕う人たちに囲まれ、和やかな雰囲気のパーティ。左は発起人の杉本彩さん。浅香山博之親方も駆け付けた

 

ビジネスも人生も「人」がすべてというのが持論です。40周年記念パーティーには古くからのお客様も大勢来てくださいました。ご子息と同伴なさり、「今後とも息子をよろしく」とおっしゃる方もいて嬉しかったです。80代のお客様から「クラブ由美の50周年記念まで頑張るよ!生きるぞ!」とお声がけをいただき感激したり……。素晴らしいご縁に恵まれた自分は果報者だと感謝の気持ちでいっぱいになりました。これからも真心という名のおもてなしに磨きをかけ、末永く現役ママとして頑張っていきたいと思っています。