これまでなかった、「涙が溢れてくる」体験をして

千葉 桂介は将棋の才能があったのに家庭環境に恵まれず、長年横暴な父親に苦労させられますよね。父親から出生の秘密を明かされるシーンで、これまでしてきたお芝居では経験したことのない感情を味わいました。不思議と涙が溢れてくるような感じとでもいいますか……。

柚月 ますます放送が楽しみになってきました。千葉さんは、どのように桂介の役作りをされたのですか?

『盤上の向日葵(上)』柚月裕子・著 中公文庫

千葉 今はまだ撮影序盤なので、役作りの最中ですが、「桂介はどんな声なんだろう?」とか、「話す時は人と目を合わせるのかな?」とか、自分なりに掘り下げています。

柚月 たしかに、小説ではそこまで書いていない。探りながら、千葉さんオリジナルのキャラクターを作っていくのは楽しそうですね。

千葉 今回、物語の設定やラストなど、ドラマと原作とで違っている部分がいくつかありますね。原作の終わり方も美しいですし、ドラマはドラマでまた魅力的です。

柚月 ラストに関して言えば、私は小説のなかで、桂介が「自分の人生を生ききった」ということを伝えたかったんです。ドラマではその部分がさらにはっきりと、優しい形で提示されている。ドラマを見た読者の方は、原作を読んで感じたことが、何か温かいもので上書きされるような気持ちになるのでは、と思います。

千葉 今、先生が「生ききった」とおっしゃいましたが、僕も同じことを考えていたので、背筋がゾワッとしました。