「作家デビューは遅いほうですが、今となれば良かったと思います。子育てが一段落したタイミングでのデビューでしたから」(柚月裕子さん)

千葉 うちの家族は逆で、すぐに連絡がきます。主に母からなんですけど。青春恋愛映画を、両親揃って映画館に観に行ってます。

柚月 私も母親なので、お気持ちはよくわかります。私が千葉さんのお母さまだったら、チラシを作って近所に配りますよ。「今度うちの子が映画に出ますので!」って。

千葉 母は、コメディの時は長い感想をメールしてくるのに、ラブシーンがある作品だと極端に短くなるんです。「観ました。体、張ってましたね」だけ。そりゃ見たくないですよね、息子のラブシーンなんて。(笑)

柚月 親としては複雑なのかもしれませんね。でも、ご両親は千葉さんのことが誇らしいと思いますよ。親孝行していらっしゃいますね。

千葉 『盤上の向日葵』、きっとうちの両親はものすごく好きだろうな。

柚月 ご両親は私と同世代ですよね。時代設定が昭和ですし、楽しんでいただけるかなと思います。
 

メンタルを整えるのも、プロの仕事

千葉 先生と僕には、共通点がいくつかありますよね。ひとつめは、2人とも東北の出身であること。

柚月 そうですね。私は岩手県生まれで、今は山形県在住。

千葉 僕は宮城県の出身です。仙台は都会だけれど、少し離れれば海も山もある。実家から近いこともあり、日本三景のひとつ、松島によく行っていました。

柚月 あのあたりは、風景が本当に美しいところですよね。千葉さんがどんな子どもだったか、気になります。

千葉 近所を走り回って虫を捕まえたり、ザリガニを釣ったりしていました。よく父が運転する車の助手席に座り、松島の遊覧船に乗せてもらいに行った記憶があります。

柚月 それは素敵な思い出ですね。

千葉 ふたつめの共通点は、今の仕事を始めてからちょうど10年が経っていること。

柚月 40歳で作家デビューして、今年で10年です。作家デビューは遅いほうですが、今となれば良かったと思います。2人の子育てが一段落したタイミングでのデビューでしたから。今は子どもたちも自立して、母や妻よりも「作家・柚月裕子」を優先できるようになりました。