今注目の書籍を評者が紹介。今回取り上げるのは『旧町名さがしてみました in東京』(102so 著/二見書房)。評者は学者芸人のサンキュータツオさんです。

令和に残る看板や表札から古き名に思いを馳せて

かつては存在し、消えてしまった町名。筆者はその痕跡、つまり現存する看板や表札を探し回り、ひたすら記録していく。決して歴史の話をダラダラするわけでもなく、ポケモンを探すようにただ旧町名の痕跡を収集していく。

本書はその成果、まさに足で稼いだ証拠の数々を、惜しげもなく画像にして披露している。資料的価値からも間違いなく一級品の記録。旧町名を探し歩く散歩という視点。今回は東京に限定したものだが、一度知ると、読者の皆さんも日本全国でやりたくなるにちがいない。

旧町名と言ったって、そんなの数に限りがあるじゃないかと思う方もいるかもしれない。しかしこの本を読むと、行政上新しい区分けをするたびに、「旧町名」が生まれている事実に気付かされる。そう、「旧町名」は増えていく一方なのだ。ただ、建物が建て替えられると、その痕跡たちは消えていく。

筆者はその消えてなくなる寸前の痕跡を、いまにも蒸発しそうな水滴を拾うように、撮影していく。そこにはたしかに、その住所に暮らし、働く人々がいて、生活があった。それを地形や地層から追うのではなく、実際に残る看板や表札という「現在」と並列させながら拾い集めるのだ。

たとえば、「品川町大字南品川宿」。東海道五十三次の第一の宿場であった「品川宿」が住所に入っている表札。そして、もっと衝撃的なことに、明治2年から2年間だけあった「品川県」の痕跡を、明治3年に設置された一里塚に見出す。しかもこれを現在の世田谷区給田で見つけているのだ。こんなことが半ページにひとつ収められ、この濃度で本書は200ページ強ある。飽きない。

古地図が何層にも重なって見えているような感覚を、令和の時代に味わえる。この興奮は、ほかでは経験したことがない。