今注目の書籍を評者が紹介。今回取り上げるのは『へんなの』(国崎☆和也 著/太田出版)。評者は学者芸人のサンキュータツオさんです。

愛すべき人との遭遇を心から楽しみ、それを書く

毎日日本中になにがしかの話題を提供しているお笑いコンビ、ランジャタイ。この本はそんなランジャタイ・国崎和也さんのエッセイ集。正直言ってその文才に驚かされた。とにかくおかしい、そして哀しい。ウェットではなく、カラッとおかしくて、哀しい。

彼らのネタもそうなのだが、「なんでいまこんなことになっているのだ」という困った状況。とにかくくだらなくて、脂汗が出て、くどくて、でも笑っちゃって涙も出る。大いなる時間の無駄のなかに、人間賛歌がにじみ出る。

M-1グランプリ出場前の、まだだれもその存在を知らなかった時代の、いわゆる「地下芸人」と呼ばれる人たちとの時間。少年時代に一緒に過ごした友だちや、たまごっちのニセモノをつかませた「あやしい大人」たちとの思い出。

この人は、ずっと正しく「遊び」つづけている。売れてもそれを通している。そしてそれで生きている。こんなシンプルなことができている芸人の、なんと珍しいことか。私なんぞ年だけ取って、書評書いたり講師やったりで「しのぎ」をしないと生きていけない。でも彼はちゃんと遊んで、笑って、芸をして、それで生きてる。その生き方、心のあり方を、どうか心に刻んで読んでほしい。ちょっとやそっとの悩みなら吹き飛ぶくらい、楽しい本です。

秀逸なのは、なんにもない四畳半の部屋で8時間ひとりでセルフ給油の監視をするという、一風変わったガソリンスタンドで出会ったバイト仲間のおじさんたちの話。その部屋で浜崎あゆみになりきって歌いながら泣いちゃうおじさんとの遭遇。

挙句国崎さん自らもなにもすることがなさすぎてマジックミラーに映る自分に話しかけていたら、そのうち店の外に見える電信柱と会話するようになったり。愛すべき人との遭遇を心から楽しんでいる彼の文章を読んで、久しぶりに声上げて笑った。