四つ子全員が統合失調症と診断された例
一卵性双生児では、二人の遺伝情報(ゲノム)はほぼ100%同一です。一方が統合失調症を発症した場合、もう一方は50〜60%の確率で統合失調症を発症すると言われています。
極めて稀なケースですが、米国にジェナイン家の四つ子という有名なケースがあります。この一卵性の4人の女児は、16 歳から24歳と発病時期や臨床的重症度は異なりましたが、全員が統合失調症と診断されました。
一方で、同じ精神疾患でもうつ病の場合には、その一卵性双生児一致確率が低いことが知られているので、統合失調症は、精神疾患の中でも遺伝要因が大きいようです。
精神疾患を発症した人と、発症していない人のすべての遺伝情報(ゲノム)を比べることで、精神疾患の発症に関連する遺伝子を調べる研究が行われています。
遺伝子にはタンパク質をつくるための情報が書かれています。
ヒトのゲノムには、2万個を超える遺伝子がありますが、それらがすべて脳ではたらいているわけではありません。
皮膚ならば皮膚に必要なタンパク質の遺伝子だけがはたらき、それ以外の遺伝子ははたらかないように封印されています。
統合失調症の発症に関連する遺伝子の多くは脳ではたらくもので、その多くが神経細胞、とりわけシナプスに関係しています。
そこで私たちの研究室では、シナプスに注目して統合失調症のメカニズムを解明する研究を進めてきたのです。
【著:林(高木)朗子/編:加藤忠史】
※本稿は、『「心の病」の脳科学 なぜ生じるのか、どうすれば治るのか』(講談社ブルーバックス)の一部を再編集したものです。
『「心の病」の脳科学 なぜ生じるのか、どうすれば治るのか』(著:林(高木)朗子・加藤忠史/講談社ブルーバックス)
うつ病、自閉スペクトラム症・ADHDなどの発達障害、PTSD、統合失調症、双極性障害…多くの現代人を苦しめる「心の病」は、脳のちょっとした変化から生まれます。
誰にでも起こりうるこの病は、何が原因で、どのようなメカニズムで生じるのでしょうか? 様々な角度から精神疾患の解明に挑む研究者たちが、研究の最前線をわかりやすく解説。