今までにないストーリーと、華やかな絵柄により、多くの読者を魅了してきた水野英子さん。手塚治虫をはじめ多くの漫画家が青春を過ごした伝説の二階建て木造アパート、トキワ荘で赤塚不二夫、石ノ森章太郎、藤子不二雄らと過ごし、少女漫画というジャンルを切り拓いたレジェンドの足跡と今は(構成:古川美穂 撮影:大河内 禎)
ファンレターが1通も来なくなっても
男女のラブロマンスやロマンチックコメディ、歴史大河ドラマに、男性を主人公に据えた作品……。少女漫画で描かれる物語の系譜を遡ると、水野英子さんに行きつく。
1950~60年代、漫画の黎明期に独自路線を貫いた水野さん。その後に続く萩尾望都、竹宮惠子、山岸凉子、木原敏江、青池保子など、いわゆる「24年組」に大きな影響を与え、のちの少女漫画の黄金時代を築いた。
――そもそも私はデビューのときから、女のコのものを描くつもりはなかったんですよ。子どもの頃からメソメソした作品が大嫌いで、西部劇やターザン映画が大好き。ずっと格好いい男性を描きたかった。他の人が扱わないけど、普遍性もあるテーマに挑戦したいという思いもあって。
それまではなんとなく慣例的に、女のコの読む漫画の主人公は女のコと決まっていました。舞台も家庭や学園など日常的なものが多かったんです。でも、私はその垣根を取っ払ってしまいたかった。とにかく既成の概念をぶっ壊したかったのね。
54年前に描いた『ファイヤー!』では、初めて青年を主人公にしました。ロックがテーマだから甘ったるい絵では表現できず、当時としては荒々しい絵で描いたのだけど、それまでの作品の読者は拒絶反応を起こしたみたい。1日20通ほど来ていたファンレターが、1通も来なくなってしまった。
さあどうなるか。ニタニタしながら描いていました(笑)。物語が進むと、怒濤のようにファンレターが届き始めたんです。男性ファンの方が圧倒的に多くてね。今年23年ぶりに復刊して、世代を超えて読んでもらっているようで嬉しいです。