『トキワ荘日記』(2009年)
水野さんが滞在した頃のトキワ荘を描いた作品。左下で漫画にペン入れをしているのが水野さん

トキワ荘では紅一点でしたけど、戸惑いはありませんでした。男のコみたいな女のコだったからかしら。たった7ヵ月でしたが、トキワ荘で漫画のすべてを学んだと思います。

それまでは漫画を描いている人も、漫画のことを話せる人も周りにいませんでした。漫画は悪いものだと思われていて、周囲からは変わり者扱い。

ところがトキワ荘は漫画を描く人ばかりです。道具の使い方一つにしても、勉強になった。一人で思い煩いながら描いていたときの謎が、一瞬にして解けていくの。

私は当時、赤塚さん、石ノ森さんと一緒に、「U・マイア」というペンネームで合作漫画を作っていました。石ノ森さんのコマ割りは本当に斬新でね。打ち合わせをしながら、好きな音楽や小説、映画などもツーカーで話が通じる。トキワ荘で初めて仲間ができたと感じました。

その頃、次々に漫画家の人たちが上京していました。誰かが東京に来るたびに、みんなでその人といっしょに手塚先生のお宅に行くんです。先生は忙しいのに笑顔で迎えてくださって。ご自宅で闇鍋会をやったこともあります。あれは大変だった。(笑)