『ファイヤー!』終了直後、私生活でも変化があった。妊娠し、結婚しないまま男の子を出産したのだ。仕事ばかりの人生に訪れた、初めての人間らしい出来事。「嬉しくて、ちゃんと育てようと思った」と言う。
――ひとりで育てていましたから、子どもが小さいうちは24時間の戦争状態。何するかわからないので目を離すことができません。とにかく片目で仕事、片目で子どもを見ながら進めていました。
もちろん長篇や連載はできない。読み切りや短篇でなんとか乗り切りましたが、収入はガタ減りでした。こんなことを続けていたらいつか死ぬと思ったけれど、親はやれるものですね。(笑)
でも出産したことで、世の中の見え方が少し変わりました。静かな、詩のような世界を表現したくなったんです。何も起こらないけれど何かがある。普通の生活って、そういうものですよね。決着がつかない、後にずっとつながっていく時間みたいな。自分自身でも気に入っている『川のむこうの家』や『青燈幻想』といった作品も、この時代に描いたものです。
息子は成長して、同じように絵を描く仕事をしています。私の原画の修復なども手掛けてくれていて。今はパソコンがなければ漫画の作業ができないような時代ですから、聞けば教えてくれる。まあ、息子は文句たらたらですけど(笑)。本当に助かっています。
いま力を入れているのは、少女漫画史を後世に残す作業です。実は少女漫画の記録は、『リボンの騎士』と『ベルサイユのばら』の間の20年間の歴史がすっぽり抜けています。同時代の漫画家さんに声をかけると、皆さん同じ思いでね。
わたなべまさこさんやちばてつやさんなど12人で「少女マンガを語る会」を作り、記録する作業を進めています。近々『少女マンガはどこからきたの?』という書籍も出します。
なんだか私、いつも言い出しっぺなんですよね。(笑)