ロックへの熱中が実を結んだのが、水野さんの代表作『ファイヤー!』だ。主人公は感化院を出てミュージシャンになった青年、アロン。60年代のアメリカを舞台に若者の怒りや苦悩を正面から描き、普遍性を持つ人間ドラマを紡ぎ上げた。
――主人公アロンのモデルは、「ウォーカー・ブラザーズ」のリードボーカル、スコット・ウォーカー。スコットは甘いルックスで、声もすばらしくいい。
でも、ヒットチャートに入るような曲をいくつも作っても、女のコに騒がれても、絶対に喜ばなかった。今の自分に決して満足せず、疑念を持ちながら活動を続けている姿に魅かれました。
ある日、買ったばかりのスコットのソロアルバムの中に入っていた「Plastic Palace People」という曲を聞いて愕然としたんです。美しい曲なのですが、疑問を持ちながらも自分ではどうすることもできない葛藤と、強烈な孤独が胸に突き刺さった。
主人公が純粋に突き進んでいく物語を描きたい。「これしかない」という思いが込み上げてきたんです。
編集部を説得して、私は海外に飛び出しました。海外旅行が自由化されて4年。取材に行く漫画家はめずらしかったでしょうね。もちろん費用は自腹です。(笑)