『ファイヤー!』(1969年)
音楽漫画の金字塔。ロックの世界で真実を求めて生きるアロンの孤独と苦悩を描く。2023年、文藝春秋で23年ぶりに上下巻として復刊された(1969~71年『週刊セブンティーン』連載)

ロックへの熱中が実を結んだのが、水野さんの代表作『ファイヤー!』だ。主人公は感化院を出てミュージシャンになった青年、アロン。60年代のアメリカを舞台に若者の怒りや苦悩を正面から描き、普遍性を持つ人間ドラマを紡ぎ上げた。

――主人公アロンのモデルは、「ウォーカー・ブラザーズ」のリードボーカル、スコット・ウォーカー。スコットは甘いルックスで、声もすばらしくいい。

でも、ヒットチャートに入るような曲をいくつも作っても、女のコに騒がれても、絶対に喜ばなかった。今の自分に決して満足せず、疑念を持ちながら活動を続けている姿に魅かれました。

ある日、買ったばかりのスコットのソロアルバムの中に入っていた「Plastic Palace People」という曲を聞いて愕然としたんです。美しい曲なのですが、疑問を持ちながらも自分ではどうすることもできない葛藤と、強烈な孤独が胸に突き刺さった。

主人公が純粋に突き進んでいく物語を描きたい。「これしかない」という思いが込み上げてきたんです。

編集部を説得して、私は海外に飛び出しました。海外旅行が自由化されて4年。取材に行く漫画家はめずらしかったでしょうね。もちろん費用は自腹です。(笑)