ヤボは承知
ここでぼくの学説も紹介したいと思います。
鎌倉幕府が成立する以前から、関東と畿内とは競合する勢力であった。関東と畿内の親和性よりも対立面を重視する。それがぼくの学問的な主張です。
ですので伊東さんの構想はよく分かる。それから瀬名さんの「はかりごと」は、伊東さんの構想やぼくの主張に無関係ではない。そんな気がします。
でも、あくまで史実としては、勝頼は景勝を選び「北条・武田・上杉」同盟は成立しませんでした。ドラマでも瀬名ワールドの破壊者は勝頼でしたが。
もう一つ、ぼくは大学生入学時に網野先生の学説を知り、それからずっとそれに反発し、乗り越えるにはどうしたら良いかを考えてきました。学問上のぼくの主敵は、畏れ多いことながら、網野先生だったわけです。
「そんなわけがあるか」と言い続けて45年。やっとおぼろげな光が見えてきて、ぼくなりの日本中世史を執筆し始めました。
そんなぼくが書く今回のドラマの感想に説得力が無いとしても、年季だけは入っています。というわけで、ヤボは承知で最後に一言。
「そんなわけ、ありません」。
『「将軍」の日本史』(著:本郷和人/中公新書ラクレ)
幕府のトップとして武士を率いる「将軍」。源頼朝や徳川家康のように権威・権力を兼ね備え、強力なリーダーシップを発揮した大物だけではない。この国には、くじ引きで選ばれた将軍、子どもが50人いた「オットセイ将軍」、何もしなかったひ弱な将軍もいたのだ。そもそも将軍は誰が決めるのか、何をするのか。おなじみ本郷教授が、時代ごとに区分けされがちなアカデミズムの壁を乗り越えて日本の権力構造の謎に挑む、オドロキの将軍論。