内心、ペロリと舌を出した

足の指を揉むくらいのことは、100年前から知っている、と言おうとしてやめた。

「それはよさそうだね。きょうから毎日やってみよう」

と、神妙な顔でうなずきながら、内心、ペロリと舌を出した。

足の指を丁寧に揉むのが体にいいことは、私が昔から言ってきたことだ。体で大事なのは中心ではなく末端である、というのが私の持論だった。30年あまり前に出した養生本のなかで、そのことを冗談をまじえて書いているから、お読みになったかたもいらっしゃるだろう。

夜、寝る前に、足の指の1本1本を、感謝しながら指で揉む。1日ご苦労さんだったね、と、声をかけながら優しく揉みほぐすのである。それぞれの指に名前をつけて、右足の指は親指から順番に、一郎、次郎、三郎、四郎と呼ぶ。小指が五郎ちゃんだ。

左足は親指が一美(かずみ)、次が二美(ふみ)、そして三美(みみ)、四美(よつみ)と続く。小指を五美(ごみ)と命名したと書いたら、お叱りの手紙が殺到した。

いくらなんでもゴミはひどい、というのだ。たしかにその通りだと反省した。イツミと呼ぶことにして炎上せずにおさまった。

『新・地図のない旅 I』(著:五木 寛之/平凡社)