写真部門優秀賞『はじめて並んで歩いた日』 長谷川ゆい(はせがわ・ゆい)さん
がんと告知された時の不安、がんと共に⽣きる決意、そしてがんの経験を通して変化した⽣き⽅など、⾔葉だけでは伝えきれない想いを絵画・写真・絵⼿紙で表現する「場」があります。がんサバイバーの方の思いが詰まった作品を紹介します。

一度くらい父と並んで歩きたい

父ががん宣告をされてから数年後、私は父に最初で最後の我儘を言った。
「バージンロードを歩いてほしい」

父は目立つことを嫌い、自分のペースを崩されることを嫌う人だった。
母と結婚する時、両家顔合わせの空気に耐えられず逃げ出した父。
家族旅行の時、こちらの様子お構いなしに一人で先に行き「遅い!」と不機嫌になった父。小学生の時、キャッチボールをした帰り道、父と手を繋ごうと隣へ駆け寄った私を「歩きにくいから」と制し、私の前を黙々と歩いた父。

そんな背中を追いかけて過ごした二十数年間。言葉数少なく、干渉せず、この距離感が私たち親子なのだと自分に言い聞かせてきた。
だけど一度くらい親子らしく父と並んで歩きたい、そう思った。