(撮影:岡本隆史)
小説家として、そして芥川賞の選考委員として、最先端の文学と向き合ってきた高樹のぶ子さん。70歳を過ぎたら、古典作品を現代小説として書きたいという思いを温めてきたと語ります。そこで前作の『小説伊勢物語 業平』の次に書いたのが、小野小町を題材にした『小説小野小町 百夜』。心の中に愛をたくさん抱えて生き切った小町の人生を綴ります――(構成:小西恵美子 撮影:岡本隆史)(※「高」はただしくははしごだか)

古典作品を現代小説に

70歳を過ぎたら平安時代の古典作品を現代小説として書きたい、という思いを温めてきました。

デビュー以来、小説家として、また長く務めた芥川賞の選考委員として、最先端の文学とは何かと問い、格闘している間は、古典に目を向けるのは難しかった。

でも、自らに残された時間が見えてきたからこそ、1000年の時を越えて生き続ける古典作品に感じるものがあると思ったのです。

2019年に選考委員を退いた後に書き上げたのが、前作の『小説伊勢物語 業平』。執筆当時から、次は小野小町を書こうと決めていました。

在原業平と小町は平安時代を代表する美男美女で、優れた歌人でありながら、ともに多くの誤解を受けてきた人物です。