今注目の書籍を評者が紹介。今回取り上げるのは『成瀬は天下を取りにいく』(宮島未奈 著/新潮社)。評者は書評家の東えりかさんです。

話題の青春小説は著者のデビュー作!

成瀬あかりは滋賀県大津市在住の中学2年生。一学期の最終日に、2020年8月31日に閉店する地元の西武百貨店大津店にこの夏を捧げると、幼なじみの島崎みゆきに宣言した。ふたりは生まれてずっと同じマンションに住む。何事も他の子より過剰に抜きん出ていて周囲から孤立しても飄々としている成瀬を、島崎はずっと見守ってきた。

成瀬はやることも奇抜だ。「シャボン玉を極める」と言えばローカルテレビ番組に取り上げられるほど上達する。夢は200歳まで生きること。期末テストは500点満点を取ると宣言、だが残念ながら490点だった。

そんな成瀬を島崎は放っておけない。だから毎夕、西武大津店から中継されるローカルテレビ「ぐるりんワイド」に映り込む成瀬のサポートを引き受けた。

西武大津店の最後を見届けたふたりの次の目標はM-1グランプリだ。膳所に住んでいるので「ゼゼカラ」とコンビ名を付けて挑む。引き気味だった島崎がどんどん前のめりになっていく。コンビの成長も読みどころだ。

別々の高校に進学しても成瀬の唯我独尊のスタイルは変わらない。成績がいいのは相変わらずで、競技かるた部に所属すれば、独特なフォームで勝ち続ける。そんな存在に魅かれてしまう人がいるのは頷ける。

では成瀬あかりは気ままに自由に振舞っているだけなのか。最終章が切ない。

デビュー作でこれだけ話題になったのは、キャラクター造詣の爽快感だと思う。中3から高3までの4年間は、少女が大人に成長する時期だ。この成長譚に特別な事件はない。舞台は琵琶湖周辺で、友だちもごく普通の高校生。なのに読んでいくうちに、滋養強壮剤のように弱った心にじわじわ効いてくる。成瀬の将来を知りたい、応援したい。行け行け、成瀬!