「演劇はただ技術だけでやるとみんな同じになっちゃってつまらない」(撮影:岡本隆史)
演劇の世界で時代を切り拓き、第一線を走り続ける名優たち。その人生に訪れた「3つの転機」とは――。半世紀にわたり彼らの仕事を見つめ、綴ってきた、エッセイストの関容子が聞く。第18回は俳優の串田和美さん。渋谷のシアターコクーン芸術監督や、まつもと市民芸術館との関わりが、演劇とは何だろうと強く考えるきっかけになったと語る串本さん。演出法も独特なのだそうで――(撮影:岡本隆史)

<前編よりつづく

息子も演劇の道に

ここで、その後の串田さんが出演した芝居について、私の観劇歴をざっと思い出してみる。モリエール原作の『スカパン』は、94年に子役に中村七之助君が出た時、2004年に串田さんの息子の十二夜(じゅうにや)君が出た時、そして22年に、子役はナシで、成人した十二夜君と小日向文世さんの長男・星一君が出演したのを観ている。

串田さんと緒形拳さんとの『ゴドーを待ちながら』や、22年、長野・松本で観た『キング・リア』。12年の『K.ファウスト』と今回の独り芝居『月夜のファウスト』。

――『スカパン』三代を観てるって、まるで歌舞伎のお客だね(笑)。でも息子の十二夜も、歌舞伎役者の子のように、這ってる頃からツアーに連れて行ったりしてるから、芝居の雰囲気が肌に染みこんでいたんだね。

2、3年前、ワークショップをやった時にじーっと見てるから、「やるか?」って言ったら、「え、いいの?」って入って来て、他の人から「何か芝居やってたの?」なんて訊かれてたけどね。

そう言えばこの頃ジュニアがいっぱい出ていますね。小日向のとこや柄本明、佐藤浩市、加藤健一、竹下景子さんのとことかね。

 

ここでちょっと余談。串田さんの映像の仕事では、ドラマ『はつ恋』(12年)のヒロイン(木村佳乃)のお父さん役がとても好き。中絶した娘に、黙っておんぶのための背中を向けるところ。娘の死後、その夫と、初恋の男を二人並べて整髪する、爽やかな笑顔の床屋さん。

――あ、嬉しい。ちょっと昭和の匂いのする、いいドラマだったね。男手一つで育てた娘が妊娠し、病院から出てきた娘を父親がおんぶしてやるシナリオだったんだけど、演出家と話して、父親がしゃがんでいるのに、娘は黙って歩いていっちゃうのを、父親はトボトボ後からついて行く、というふうにしたんだった。