「そうかもしれない思考」を取り入れる
65歳を過ぎたら心の老い支度が大切になる理由は、もう一つあります。脳にある前頭葉の萎縮が進むからです。
前頭葉とは、ちょうどおでこから頭頂部のあたりに位置し、大脳の約3分の1を占める部位です。思考や意欲、理性、性格などをつかさどり、とくに、微妙な感情の表現や、感情に基づく高度な判断を行っています。
「悲しくて泣く」「腹を立ててケンカをする」などといった原始的な感情ではなく、「何かに感動する」「好奇心やときめきを持つ」「気持ちをコントロールしたり切り替えたりする」といった、レベルの高い「人間らしい思考」に関与しているのが前頭葉なのです。
前頭葉の萎縮は、年を取れば誰にでも起こります。私にも、あなたにも起こっています。そしてそれは、早い人の場合、40代から始まるのです。
ただし、萎縮のスピードはとても緩やかであるため、自分では変化に気づきにくいものです。一方、久しぶりに再会した人に対して、「前よりも頑固になった」「すぐイライラするようになった」「疑い深くなった」など、変化に気づくことはないでしょうか。
人は加齢とともに思考の柔軟性を失い、頑(かたく)なになり、感情の表現力が鈍くなっていくものです。
これは、前頭葉の萎縮によって起こっています。
心の老い支度をせずに放置していると、頑固者はますます頑固に、怒りっぽい人はますます怒りっぽく、気が弱い人はさらに気弱になりやすいのです。
前頭葉は、脳の中でも最も遅く成熟し、最も早く老化していきます。ただし、人は脳の1割程度しか使いこなせておらず、9割は残存させているといわれます。
ですから、たとえ前頭葉の萎縮が進んでも、残存している残りの部分を意識して使っていければ、それをカバーできます。
そのためにも、心の老い支度が役立つのです。