段階的にメイクをマイナスしてみた
夏場のメイクの意義が気になり出した私は、やたら女性のメイクをチェックするようになった。電車内や居酒屋、スーパーなどあちこちで見たけれど、夕方まで一糸乱れずキープできている女性はいなかった。アイラインがよれていたり、小鼻周りのファンデが落ちていたり、マスカラが下瞼についていたり。皆、着実にコウメ太夫化の仲間だった。
そんな様子を見ながら、私の「夏季メイク長期休暇」は、日増しに熱を帯びていく。とはいえ、だ。突然のっぺり顔を世間にさらすのも、気が引ける。そこでまずはファンデーション、チーク、マスカラ……と順にメイク工程を少しずつやめていくことにした。
まずは眉毛とリップだけを残して、馴染みの居酒屋に出かける。徒歩圏内の店であろうとも、いつ何時どんな出会いがあるかもしれぬと、中年の下心がうずき、メイクを欠かすことなく店に顔を出していた。店主は私の魔法がかかった顔をよく知っている。
「あのさ……」
「はい?」
「いや~、どうかなって思ったけれど、今日、ほぼすっぴんなんだよね」
「あ、そう? 今日なんか若いなと思った」
「あ、若いか、そうか」
「(いつもと)全然変わんないよ」
この会話に揚げ足を取るのはやめようと思った。「おいおい、若いなって、なによ~。そりゃおばさんだけどさあ(笑)」とツッコミ返したら、この夏、最大クラスになるかもしれないトライアルが総崩れである。そのまま今日は「若く見える」という言葉を、ありがたく拝受しよう。