ノーメイクカメラマンの話
だんだんノーメイクの味をしめ始めた頃。化粧をする、しないに関してこんなことを思い出した。
20代で上京して、出版社に勤務をし始めたころのことだ。写真集の撮影で、とある女性カメラマンとご一緒した。きれいな人だと思ったけれど、何か違和感があった。聞くと生まれてこのかた、化粧をしたことがないと言う。驚いた。すっぴんで仕事をする人がいるという文化は、ど田舎から上京したばかりの私にとって、一大トピックだった。美女こそ、身だしなみとして化粧を欠かすことはない。そんな刷り込みがあった。
「化粧は一度しちゃうとその顔として、印象づいてしまうでしょう? だったら最初からしないほうがいいのよ。だから私が化粧をしたことがないの。まあ、これが自分の顔だからサ」
もう20年以上前に言われたことだけど、鮮明に記憶している。もしこの至言(?)を、早めに聞いておいたら、化粧に手を出すことはなかったかもしれない。
このノーメイク根拠は、令和の夏にはふさわしいし、大いなる味方だ。映えなくてもいい、誰のためでもない自分の生活。化粧をしないことは2023年の夏、自分が選んだこと。記録的な暑さではなかったら、こんな原稿を書くことも思いつかなかった。なんだよ、酷暑もたまにはいいことを教えてくれるじゃないか。