何歳になっても美味しく食事をするためには、歯だけでなく、のどの健康維持も大切です。そのためには、のどの筋肉を強化すること。今日からできるトレーニングを伝授しましょう(構成=島田ゆかり イラスト=渡邉美里)
死に至るリスクがある疾患
近年、嚥下の悩みを抱えて私のクリニックを訪れる高齢の患者さんが多くなりました。嚥下障害は、超高齢社会である日本が抱える大きな問題と言えるでしょう。
というのも嚥下障害は、加齢によるのどの筋力低下と、神経機能の衰えにより起こるからです。「食事でムセる」「うまく飲み込めない」「のどにつかえる」「食べるのに時間がかかる」「食事中にせきやタンが出る」「錠剤が飲みにくい」といった症状が表れ始め、深刻な状況になると「誤嚥性肺炎」を引き起こすこともあり、命を落としかねません。
実際、肺炎と誤嚥性肺炎を合わせると、今や、がん、心疾患に次ぐ日本人の死因第3位になっています。(厚生労働省「人口動態統計」平成30年)
誤嚥性肺炎は、食べ物や唾液が「食道」ではなく「気管」に入ってしまい、侵入した異物により肺炎を引き起こす疾患です。ひと昔前の医療なら、嚥下機能が低下した患者さんには、誤嚥性肺炎予防の観点から、口からの食事をあきらめ「胃ろう」に切り替える処置が施されてきました。
しかし近年は、QOL(生活の質)を落とさないためにも食事を楽しむことが重要視され、「最期まで自分の口から食べる」ことを推奨する医療に変わりつつあります。そのため、セルフケアとしてのどを鍛えて嚥下力の維持に努めることに注目が集まっているのです。