車両トイレに並ぶ鉄道ファン
鉄道ファンにとっては、このトイレの垂れ流し管が蒸気機関車の発車音を録音するのに一番良いところで、蒸気機関車の次位の車両トイレには録音する人たちが順番待ちで並びました。
トイレにテープデッキをもち込み、マイクをこの管に入れてレール近くまで延ばし、蒸気機関車のロッドやレール音を録音する。レールに最も近く、パイプで風きり音が遮断されるので録音には最適の場所です。臭いは録音には残りません。
1963(昭和38)年9月に岡山県知事三木行治(みきゆきはる)より「列車の便所から放棄される汚物の処理について」という嘆願書が当時の国鉄総裁石田礼助(いしだれいすけ)に提出されました。
同年10月にはとくに汚物の飛散が甚しい尾久駅に約100万円の予算で長さ235メートル、高さ1メートルの板塀が急遽、設けられました。
1965年(昭和40)年6月には清掃法*2の改正により車両を運行する者に適切な処理が義務付けられました。
*2 汚物の衛生的処理と生活環境の清潔による公衆衛生の向上を目的として制定された法律。昭和40年6月に改正され、車両を運用する者に適切な処理を義務付けた。
※本稿は、『列車トイレの世界』(丸善出版)の一部を再編集したものです。
『列車トイレの世界』(著:清水洽/丸善出版)
快適に移動できるのは、列車トイレの発達あってこそ!
糞尿がレールに飛び散っていた「垂れ流しトイレ」の時代。現在の綺麗で快適なトイレに至るまでは技術者の地道な努力の積み重ねがあり、それにより日本は世界に先駆けて垂れ流しトイレの全廃を実現した。しかし、海外の列車に目を向けると今でも垂れ流しトイレが残っている。 日本における列車トイレの歴史、汚物の処理方法、さらに海外の列車トイレの紹介を通して、列車の快適性を支える「列車トイレ」から日本そして海外の衛生環境を考える一冊。