持病を抱えての映画撮影で感じた困難

ー2023年10月7日(土)に、初主演映画『いまダンスをするのは誰だ?』が、新宿K's cinema他全国順次公開が決定。本作の主人公は、ある日突然、若くしてパーキンソン病と診断される。本作の発起人である松野幹孝さんも、証券マンとして働き盛りの頃に同じ病の診断を受け、苦悩した一人であった。樋口さん自身も、2009年にパーキンソン病の診断を受けている。病と向き合いながらの長期撮影は、難しさを感じる場面も多々あったと語る。

©2022いまダンフィルムパートナーズ

当初は、映画の主題歌を作るだけというお話だったんです。でも、その後、監督から「樋口さんを主演にしたい」との手紙が届いて。そこには、「清水の舞台から飛び降りるつもりで樋口さんにお願いします」と書いてありました。やれるだろうか、と不安になったものの、僕は「やったことがない」という理由で断るのが勿体無いと思う質で。新しい挑戦にワクワクするところもあり、主演を引き受けようと決めました。

歌と演技は違うものと思っていましたが、実際にやってみたら、根っこのほうでつながっている気がしましたね。自分に何かが憑依してくる感覚とか、そういう部分が似ているな、と。とはいえ、この病気を抱えての撮影は、大変なこともたくさんありました。

パーキンソン病の症状の一つに、「表情が乏しくなる」というのがあります。自分では脳内に思い描いた表情をしているつもりでも、実際には病気のせいで2割ほど表情が足りなくなってしまう。そういう時、これでいいのかなと少し不安を感じたりもしましたね。

それと、これは人によって症状の有無が異なるんですけど、僕の場合は目を開けづらくなるんです。開けていようとしても、どうしても瞼が落ちてきてしまう。その影響で瞬きの回数が増えるんですけど、その様子が瞬きしながら台詞を思い出しているように見えて、「素人っぽい」と思いました。病気のことをよく知っている人なら、これは症状だなとわかるので逆にリアルに感じると思うんですけど。

パーキンソン病と診断されて15年目になりますが、今のところ薬の種類や量はそんなに増えていません。ただ、やはり体を動かす予定がある日、たとえば今日のように取材のある日などは、いつもより多めに薬を飲んじゃうんですよ。でも、そうするとジスキネジアという症状が起きるんです。

ジスキネジアとは、パーキンソン病を患う人が悩まされる症状の一種で、体が意図せず動いてしまう症状のことをいう。薬が効きすぎている時に表出しやすく、自分では動きを止められない。

作中で、会議中にジスキネジアの症状が出てしまい、体の動きが止まらなくなるシーンがあるんですけど、僕は実際ジスキネジアの症状がそこまでは激しくないので、同じ病気を抱えるエキストラの方に指導を乞うたんです。その方が、ジスキネジアの症状が顕著に出ている時の映像を送ってくださって。それを見て驚きました。本当にダンスを踊っているように見えるんですよ。体を動かす意思が、体の動きと全然噛み合っていない感じで。会社でこの症状が出たら、「お前何こんなところで踊っているんだ」と言われても納得するなと思うほど激しい動きでした。

映画の撮影は拘束時間が長く、早朝から夜中までだったので、薬を飲むタイミングが難しかったです。ジスキネジアのリスクがある以上、撮影の間中ずっと薬が効いている状態を保つわけにはいかないので。だから、症状が出てもいい。むしろ出していこうと思いました。猫背の姿勢になっているところは、大体薬が切れているか、効いていないかのどちらかですね。