人は友達になることや恋人になることだけが人との関係性の全てだと捉えがちだけれど、でも人という存在はある一人の人にとっての「世界」の多くを占めている。私は色んな人にとって「世界」の一部なんだ。たとえその人の人生の重要人物にならなくても、私がただ私の人生を生きているだけで、その人にとっての「世界」がすこし鮮やかになったり解像度が上がったりするのだとしたら、それはすばらしいことだ。私は人と話すのが苦手だけれど、こんなふうに世界を豊かにしていく無数の「他者」の存在は好きだ。こうやって関わっていくことを大切に思いたいだけなのだ。それを大切に思えるだけで、別にみんなと仲良く喋ることはできなくても、すぐに誰かと友達にはなれなくても「人間嫌い」ではない気がするし、人そのもののことを好きだと思っていられる気がする。
 そんなふうに信じられるのは、私が好きなものを心から大好きだから、なんだけど。そうやって、世界を好きだと思えるのかもしれない。誰かにとって「他者」であることを悲観しすぎずに済むのかもしれない。好きなものがあるということは、世界に関わる意味を、私の人生にもたらすのかもしれないです。

 お誘いした人が私の好きな演者さんのことを調べてから劇場に来てくださったことがあって嬉しかった。そんなふうに気を遣わないでくださいと言っても、その人の好きなものがその人だけの大切な幻を持つと知っている人は、そりゃあ、気を遣いはするだろうな、あたたかいなぁと思う。せめて、そういう優しい人がふと思い出す「ある日の鮮やかな光景」にあの日がなっていたらいいなと思う。