井上さんが普段持ち歩いている食用のタガメ(写真提供:井上さん)

なぜ虫は敵視される?

重松 一方で、農薬などの影響でミツバチが絶滅するのではないか、というニュースもあります。虫と言えば、とにかく無数にいるというイメージでしたが……。

奥本 昔はうじゃうじゃいましたね。夏の夜に電気をつけていると虫が集まり、朝起きると網戸の下に虫の死骸がいっぱいたまっていた。田んぼからは米以外にも、食べものがたくさん得られました。タニシ、イナゴ、ドジョウ……。ごはんを炊いて、それらの生きものを煮ておかずにしてメシが食えた。それが昭和30年代初頭頃から、田んぼは農薬で消毒されるようになります。効率よくお米を穫れるようにしたんです。

重松 その一方で虫が邪魔者に。虫嫌いが増えたのは、ハエや蚊は害虫であり、虫は不潔で病気をもたらすというイメージが強いからでしょうか。

井上 「殺虫剤」で虫を殺すとか、虫は敵みたいですね。

奥本 蚊取り線香、青蚊帳、うちわを夏の風流とした永井荷風の時代はすでに遠い。

重松 蚊取り線香は昔、「蚊遣り」とも言いました。蚊を殺すのではなく、嫌がる香りによって「あっちに行っていなさい」と。蚊帳も、うちわであおぐのも、同じ発想です。

井上 虫にやさしい。

重松 ヨーロッパでの虫の捉え方はどうなのでしょう。

奥本 追い詰めて殺す、でしょうね。虫は評判悪いんです。トンボは「ドラゴンフライ」。そう聞くと、勇壮な虫のように思いますが、ドラゴンは「悪魔」だから、トンボは気持ち悪いもの。子供がウソをつくと「トンボが尻尾で口を縫っちゃうよ」と親が戒める。

井上 えっ、悪者にされているんですか。

奥本 テントウムシとミツバチ は例外で、テントウムシは《神様の虫》《マリア様の虫》と言われます。なぜかと言うと、害虫を食べてくれるから。ミツバチからはハチミツが採れます。