1970年代に洒落た画風で女性誌を彩ったイラストレーターにして、80冊以上もの絵本を世に送り出してきた飯野和好さん。76歳の今、そのジグザグ半生を振り返ります(構成:山田真理 撮影:大河内禎)
後先考えずに飛び込んじゃう
夏に向かって緑を濃くする鎌倉。自宅兼アトリエで、飯野和好さんは新作の仕上げに取りかかっていた。
「今度の絵本は、角をなくしちゃった鹿が主人公。語りの部分は『なにがなにして~』と詩吟調です! 作家のおおなり修司さんから、『詩吟の絵本やりましょう!』とお誘いがあり、『おおっ、詩吟か! これは楽しかー!』と、毎日鹿を描いています。絵本の中でいろいろチャレンジして読者の皆さんとともに楽しむ、これが一番ですね」
長年の『婦人公論』読者であれば、もじゃもじゃ頭に細い目の女性を描いた洒脱なイラストレーションを記憶している人も多いかもしれない。森瑤子さん、江國香織さん、佐野洋子さんなどの本の装画、ポスター、ファッション誌のイラスト、絵本の数々。1970年代から創作の世界で活躍してきた飯野さんだが、その道のりは決して平坦ではなかった。
生まれ育ったのは、埼玉県秩父の山里。たまに行く映画館、神社の境内で演じられる旅芸人のチャンバラ劇、神棚の隣にあるラジオから流れる浪曲などの演芸番組が楽しみな子どもだった。「絵を描くのは好きだったけど、田舎だからどうやって勉強すればいいかもわからなくてね」。