久しぶりのコックニー訛り

ほかの子どもたちがどっと笑った。じっとこちらを睨んでいる犬、けたたましく吠える犬、うううううと低く唸っている犬。その背後に立っているのは10人ぐらいの子どもなのだが、わたしは脅威を感じていた。悟られないように大股で歩き始めると、いきなり石が飛んできた。子どもたちがこちらに石を投げているのだ。病み上がりの連合いに当たってはまずいのでとっさに庇おうとすると、連合いは前に出て行って叫んだ。

「このピカピカほっぺのしょんべん小僧どもが!人をなめたことしやがると、てめえらのファッキン親たちに話をつけにいくぞ」

久しぶりに連合いがベタベタのコックニー訛りでしゃべったのを聞いた。いまどきのロンドン在住者にはしゃべれない昔かたぎのコックニー訛りは、若者や子どもにはギャング映画のマフィアが話しているようにしか聞こえないと耳にしたことがある。そのせいだろうか、子どもたちは背中を向けて茂みの中に逃げて行った。

子どもたちがいなくなると、犬たちも一匹、また一匹と茂みの中に消えて行った。が、最初に現れたゴールデンレトリバーだけが、まだわたしたちの後をついて来ていた。茂みの中から、先ほどのキッズ軍団の中にいた少女が現れて、こちらに近づいてきた。

「その犬を返して」と言うので、「もちろん!」と答えた。

彼女はその犬を「テイラー」と呼んだ。毛のふさふさした金色の犬の姿は、確かにテイラー・スウィフトに似ていると思ってちょっと笑いそうになったが、テイラーは少女と一緒に行こうとしない。少女はそのうち諦めて、ほかの子どもたちのところに戻って行った。テイラーは首輪もしていないし、毛並みもきちんと手入れされている感じではない。