テイラーの本当の名前

車がたくさん走っている大通りに出ても、テイラーは後ろをついて来た。車を怖がる様子がまったくなく、堂々と道路の真ん中で止まったり、行ったり来たりしたりする。車を停めて窓を開け、こちらに文句を言う人もいて、「わたしたちの犬ではないんです」と説明せねばならなかった。このまま置き去りにするわけにもいかないので、RSPCA(英国王立動物虐待防止協会)に電話をすると、地方自治体に連絡するように言われた。が、役所の担当部署に電話をしてもクラシック音楽が流れるばかりで、まったく繋がらない。すると、連合いがいきなり高く両手を振って一台の車を停めた。それは中に犬を乗せている車だった。車中のカップルにわけを話すと、テイラーを地域の救急動物病院に連れて行くと申し出てくれた。救急動物病院ならRSPCAが保護に来るだろうというのだ。

こうしてわれわれはようやくパブに辿り着き、一服してからブライトンに戻ったのだったが、翌日、外で仕事をして帰宅すると、連合いがこう言った。

「無事に飼い主のところに戻ったらしいよ」

聞いてみれば、連合いはテイラーのことが気になって夕べ眠れなかったらしく、朝のうちにカップルが話していた救急動物病院に電話してみたのだという。先方は快くあの犬のその後について教えてくれたらしい。

飼い主の情報が入ったマイクロチップが装着されていたそうで、飼い主に連絡すると、すぐに迎えに来たということだった。もちろん飼い主の情報は教えてくれなかったが、テイラーの本当の名前は「サマー」だったということだけ教えてくれたらしい。

「夏の終わりに、黄金のサマーが見つかったんだよ」

珍しく連合いが風流なことを言った。そういえば、検査や手術や医師のストライキに振り回された彼の夏も、ようやく終わろうとしている。