〈カラオケdondon〉の奥まった一室。そこは通称〈バイト・クラブ〉のための部室。ここの部員になるための資格は、【高校生の身の上で「暮らし」のためにバイトをしていること】。塚原六花は蘭貫学院高校の教師。〈バイト・クラブ〉メンバーの三四郎の担任であるのだが……。

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塚原六花(つかはらりっか) 三十五歳 
私立蘭貫(らんかん)学院高校教師

 同じ町に住んで働いているんだから、いつかどこかでバッタリ会うかもしれないとは思っていた。
 それなのに、高校を卒業してから十七年間。まったく会うことはなかった。クラス会でもすれ違い。でも案外そういうものなのかもしれない。
 高校時代に付き合った人。
 正確には、高校二年生から卒業前までの二年間。
 そういう言い方をするなら、私の最初の男。
 尾道(おのみち)くんにとっても、私は最初の女。
 初めての人が尾道くんで良かったって、今でもそう思える。若気の至りなんていうことじゃなくて、本当に好きになって、そして身体を許し合ってもいいって思って、そうなった。
 あれは高校三年生のとき。そして二人とも大学受験が終わった日。二人とも受かる自信があったとき。
 違う大学へ行っても、絶対にこの先も離れたりしないって話した日。随分とロマンチックな話になってしまうけれど。
 結局その後すぐに別れることになってしまったんだけど。
 今でも、嫌いじゃない人。
 どんなふうになっているのかなって思うこともときどきあった。会ってみると、随分と垢(あか)抜けた感じになっていた。
 美術系の大学へ行ったのはもちろん知ってはいたけれども、グラフィック・デザイナーなんていうオシャレっぽいカタカナの仕事をしているなんて。
 高校時代の尾道くんは、どちらかと言えば熱い男だった。曲がったことが嫌いな正義漢。悪さをしている同級生たちと喧嘩(けんか)して停学になったこともあったっけ。知性派よりは肉体派。
 そんな感じなのに、読書好きで小説なんか書いちゃう人。
 アンバランスといえばそうなんだけれど、そのアンバランスさがとても似合う人だった。
 そういう人を好きになったのは、どういうわけか、尾道くんが最初で、最後なのかもしれない。