「三四郎(さんしろう)とはどういう関係?」
 え、どうしてそんな話を。
「いや変なことを考えているわけじゃなくて、あいつが言っていたからさ」
「言ってたって? 何を」
 尾道くんが軽く肩を竦(すく)めた。そうだ、この人はあの頃からそういう芝居じみた仕草をよくしていて、それがとても似合っていたんだ。
「担任は、バイトしてもたぶん見逃してくれるから大丈夫ってさ。蘭貫学院はバイト禁止だろ? 担任がそれを見逃すってのはどういう理由なのかなってさ」
 そうかー、三四郎くん、尾道くんにそんなふうに話したのか。まぁ、しょうがないよね。信頼あってのことだものね。
〈バイト・クラブ〉か。
 話は聞いていたけれど、うん、三四郎くんはそういうところにいた方がいい。彼なりの居場所が、与えられるべき男の子だと思う。
「それはねー」
「うん」
「言えない」
「何だよ」
 尾道くんが笑う。
 言えるわけないじゃない。
「だって、バイト禁止なのにそれを見逃しているのよ。問題になるに決まっているじゃない。どうしてそれを堂々と赤の他人に話せるんですか」
「まぁ、そりゃそうか」
 赤の他人なんかじゃない、とでも言いたいですか。
 まぁ確かにただの赤の他人じゃないですけどね。元は付き合った、恋人同士ですけれど。
「でもね、本来はバイト禁止だけれど、やっている子だってけっこういるの」
「いるのか、蘭貫学院にも」
「そりゃあいるわよ。いちいち処分していたらこちらの身が持たないから、見て見ぬふりしているの。よっぽど悪質というか、目に余るもの以外はね」
「そうなのか」
「私立ですからね。その辺は柔軟に」
 でも、理由はもちろん、あります。三四郎くんのアルバイトを私が堂々と見逃している理由。
 まぁほとんどその理由は私の方にあるんだけれども。