誰も注目しないから昔のままを保てる

多くの踏切がなんとさまざまな「昔語り」をしていることか。いろいろな資料をたどって全国の踏切名を調べると、昔より減ったとはいえ、今も約3万ヵ所が存在するというだけあって名前はバラエティに富んでいた。

そもそもなぜ名前が旧態依然であるかといえば、冒頭でも述べた通り誰も注目しないからである。踏切が名乗る地名や施設の実態がどうであろうと、現地の標識や管理簿を改める手間やカネがあれば、傷んだ遮断桿一本を取り換えるほうが先決だろう。

そんなわけで、見向きもされないがゆえに昔の名前を保ち続け、それでも毎日黙々と(カンカン鳴るけれど)交通の安全を守ってきた彼らに寄せる想いは膨らんだ。

そんな話を地名の講演のついでに取り上げたところ評判が良いので、珍名踏切についてのネット連載「珍名踏切が好き!」(ニュースサイト「アエラ・ドット」)を始めることになった。これらをまとめたのが、拙著『ゆかいな珍名踏切』(朝日新書)である。