山田 僕ももうこんな年だけど、そうね、お客さんがぶわーっと笑ってくれる映画をもう一度作りたいな。笑えるって大事じゃない。最近は映画もテレビドラマも、深刻なのが多いから。

吉永 私も笑いたいです。

山田 寅さんもヘンな家族の物語だったけれど、大声で笑っちゃうような家族に会いたい。落語の世界みたいな。

吉永 いいですね。映画を見て面白かったら、もっと思い切り笑ってほしいなといつも思っています。私は映画館で一人だけ大きな声でハハハッと笑ってしまうので、人からヘンな目で見られたりするんですよ。

山田 ちゃんと映画館で見ているんだ。

吉永 はい。映画は映画館で見ると決めているんです。監督が時々、「この映画いいですよ」と勧めてくださるでしょう。この間は、中国映画の『小さき麦の花』を教えていただいて。すばらしい作品でした。

山田 『パリタクシー』はご覧になった?

吉永 いえ、まだです。

山田 軽やかで、とってもいい映画ですよ。高齢の女性が1日タクシーを乗り回して、運転手と仲良くなる。主演女優は当時94歳ですが、綺麗なんですよ。吉永さんもぜひ、94歳でも現役の女優を目指してほしい。

吉永 私は今でも役者としてアマチュアだと思っているので、なんとかプロフェッショナルになれるよう、この先も諦めずに続けていきたいです。

山田 僕は監督になれたらいいなと思いながら松竹撮影所に入社して、ずっとこの道を歩いてきた。豆腐屋さんが豆腐を作るのと同じように、僕の生業として映画を作っている感じなんですよ。でも、この道はそんなに間違ってはいなかったなと思う。

吉永 私は小学校5年の時に、児童劇に出たのが始まりでした。「あぁ、演じるのって楽しいな」と思い、卒業文集に「大きくなったら映画俳優になりたい」と書いたんです。最近、そういうことをよく思い出します。

山田 ああ、僕も思い出した! 僕は敗戦後、しばらく中国・大連の中学にいたんです。大混乱で勉強もろくにしないから、学芸会をやろうということになって、僕は学校の中に劇団を作っちゃった。

団員はせいぜい7、8人だったけれど。僕が脚本を書いて、主演は僕で、ドタバタのナンセンスコメディ。本番では、お客さんがワーワー笑っているわけよ。ふと客席を見たら、親父が怖い顔をして僕を見ている(笑)。でもその時かな、作る側の楽しさを知ったのは。

吉永 そうでしたか! 大変な仕事ですが、やっぱりものを作るというのは楽しいですね。久々に監督のそういうお話を伺えて、嬉しかったです。ありがとうございました。


山田監督がメガホンを取り、吉永さんが主演した映画『こんにちは、母さん』は、9月1日より全国公開 <公式サイト