「がんばらないと言いながら筋トレを続けるのは、今を楽しみたいからです。」
毎日機嫌よく過ごしたくても、生きていれば悩みや心配ごとは尽きないもの。これまで多くのいのちに寄り添ってきた鎌田實先生に、幸福度を上げるコツを教えてもらいました(構成=山田真理 イラスト=太田裕子)

今を楽しむために欠かせないこと

毎年3月に国連の関係機関から発表される「世界幸福度ランキング」。日本はGDPや健康寿命のスコアは決して悪くないのに、今年も47位という低い順位でした。もしかすると日本人は、身近にある幸福を実感しにくい国民なのかもしれません。

しかも年を重ねると病気や介護、経済的な問題といった不安が加わり、ますます幸福を感じにくくなる。患者さんと話していても、「そんなに先のことばかり心配しなくてもいいのになあ」と思うことがよくあります。

私自身は、現在75歳。数年前から心房細動をたびたび起こし、2021年には太ももからカテーテルを入れて心臓の筋肉を焼く手術をしました。心房細動は高齢になるほど増える病気ですし、手術後は絶対安静ということで初めてオムツをつける経験もして。「いよいよ自分も老いの仲間入りか」と、落ち込み半分、おかしさ半分で苦笑いしたものでした。

しかし私は長年、「がんばらない生き方」を提唱してきました。自分の「老い」や「病」についても、なるべく無理なく自然につき合っていきたいと考えています。実はこの2年でまた心房細動を何度か起こし、主治医には「もう一度手術をしたほうがいい」と提案されました。

けれども私の望みは、生きている間はピンピンと元気に過ごし、ひらりとあの世へ逝くこと。75歳という年齢を考えると、今は負担のかかる手術はしないほうがいいと判断し、薬物治療と運動で対処することにしたのです。

現在は、ウォーキングや自宅でできる筋トレに加え、スポーツジムにも通っています。今日はベンチプレスで37.5kgのバーベルを持ち上げ、「最高記録ですよ」とトレーナーさんに褒められました。

がんばらないと言いながら筋トレを続けるのは、今を楽しみたいからです。私はスキーが大好きですし、仕事で東京に行ったときにジャズ喫茶を巡る趣味もある。スキーはもとより、ジャズ喫茶は地下にあることが多いので、階段を下りるために足腰の筋肉を鍛えておかなければならないのです。

もちろん無理はしません。でも、持病があったとしても自分の足で歩き、買い物に出かけ、美味しい物を食べることが人生の最期までできたら最高でしょう。老いや病気、経済的な問題を抱えたからもうダメだとあきらめるのではなく、そこをどうコントロールして楽しむのか考えるのが、人生100年時代には大事な姿勢です。

がんばらないけど、あきらめない。毎日を前向きに生きるために、私も実践しているちょっとしたコツをご紹介します。