黒川さん「そもそも夫婦喧嘩は激しくて、憎み合うもの」(写真提供:Photo AC)
社会生活を送る上で、多くの人は「仲間外れになりたくない」「誰かに認められる正しい人間でありたい」と自然に考えます。それは脳のメカニズム、特に生殖本能に関係していると話すのが、脳科学・AI研究者の黒川伊保子さん。「でも、正しく生きるのが重要なのは60代以上となった私たちも同じ? もう生殖の必要もないのに?」と問いかける黒川さんいわく「そもそも夫婦喧嘩は激しくて、憎み合うもの」と言っていて――。

夫婦喧嘩も種の保存の一環

「違う個性を持ちよって、互いと子どもを守り抜く相手」なのだから、二人が違うことを認め合って、互いに尊重し合えたら、どんなに美しい二人だろう―と思うけれど、残念ながらそうはいかない。

とっさに違う正解が出る二人。譲り合っていたら、危ないからだ。

たとえば、沈みゆく船の中で道に迷い、出口を探して走る二人の前に、二手に分かれる道があったとしよう。

夫は左、妻は右と答えが真逆になったとき、どう“演算”したら、いち早く正解を手にできるか……そう考えてみればいい。

「あなたの言うとおりでいいわ」「いや、君のほうにしよう」なんてやっていたら、答えが決まるのに時間がかかってしまう。

しかも、両方とも自分の「命の直感」を投げ出すわけだから、もったいない限り。というわけで、譲り合いは危険だ。

即座に激しく喧嘩して「命の直感」をぶつけ合い、意志の強いほう、すなわちとっさの確信が深かったほうが勝つ。

この仕組みが、最も正解の確率が高い。仮に、意志の強さが拮抗して答えが出なかったら、二手に分かれればいい。どちらかが生き残って、子どものもとに帰れるから。

このとき、潔く背に背を向け合って、弾かれたように走り出すためには、互いを憎み合っていなければならない。

だから、夫婦喧嘩は激しくて、憎み合うものなのだ。かつて愛し合った相手なのに、別れるときには、虫唾(むしず)が走るくらいに嫌いになる。それは、二人のうちのいずれかが必ず生き残るための本能のプログラムなのである。