黒川さん「一定期間を過ぎると、再び警戒スイッチが作動してしまう」(写真提供:Photo AC)
社会生活を送る上で、多くの人は「仲間外れになりたくない」「誰かに認められる正しい人間でありたい」と自然に考えます。それは脳のメカニズム、特に生殖本能に関係していると話すのが、脳科学・AI研究者の黒川伊保子さん。「でも、正しく生きるのが重要なのは60代以上となった私たちも同じ? もう生殖の必要もないのに?」と問いかける黒川さんいわく「恋を永遠にするには『共感』がカギ」だそうで――。

女性脳の警戒スイッチ

脳の生殖プログラム、まだある。

哺乳類、鳥類、爬虫類のメスたちの脳には、オスに対する警戒スイッチが搭載されている。オスのアクションに対して、「攻撃されてる!?」と反応する機能である。

リビングで寛(くつろ)いでいるとき、夫がふいに入ってくれば、イラっとする。夫がいきなり5W1Hの質問を投げかけると、感情的になる。

夫「そのスカート、いつ買ったの?」妻「安かったからよ」、夫「この荷物、どうしてここに置いたの?」妻「邪魔だってわけ!?」、夫「どこ行くの?」妻「どこだっていいでしょ。あなたに関係あるわけ?」、夫「何時に帰る」妻「わからないわよ。デパートの混み具合によるし」

こんな会話、どのご夫婦にも、心当たりあるんじゃないだろうか。妻もイラついてるのだろうが、夫もまた、あまりにつっけんどんな妻の回答に、「なんで、こんな優しくない人と結婚しちゃったんだろう」と思うらしい。

実は、妻には、夫のいきなりの質問が、すべて自分への威嚇やいちゃもんに聞こえるのである。それもこれも、脳の警戒スイッチのおかげだ。

哺乳類、鳥類、爬虫類は、オスとメスの生殖リスクが違う。特に哺乳類は、生殖におけるメスの負担が著しく高いので(身ごもって、命がけで生み出し、血液を母乳に変えて与え続けるのだもの)、その辺の遺伝子相性の悪い相手に妊娠させられるわけにはいかない。

このため、異性のアクションに対して、瞬時に激しく警戒する必要があるのだ。脳の辺縁系周辺にある本能のスイッチである。