健常児と一緒に泳ぐことにこだわった自分が間違っていたと思い直した(写真提供:Photo AC)
文部科学省の学校基本調査(2021年度)によると、自閉症・情緒障害特別支援学級には小学校で12万266人、中学校では4万4842人の児童生徒が通っているとされ、この数は増加傾向にあるとされます。今回、医師で作家の松永正訓先生が、幼児教育や子育てに関して著作活動や講演活動をしている立石美津子さん(=本文「母」)と自閉症を抱える息子さん(=本文「勇ちゃん(仮名)」)の実体験を紹介します。スイミングスクールへ勇ちゃんを連れて行った立石さんですが、健常児と一緒に泳ぐことにこだわる自分が間違っていたと感じたそうで――。

スイミングスクールへ

喘息を持っていた勇太君に、母は水泳を習わせたいと考えていた。体力を付けるという面のほかに、遊びの水泳ではなくコーチにきちんと指導をしてもらい、健常児に交じって刺激を受けつつ、しっかり泳げるようになって欲しいと考えていた。

そこでまず、選手育成で名高いSスイミングスクールに行った。まずは体験授業である。母は勇太君に言い聞かせた。

「コーチの言うことをしっかり聞いてじっとしているのよ。勝手に動き回ったらダメよ」

母は2階の観覧席からプールの様子を見守った。普段は多動な勇太君は懸命に母との約束を守り、なんとかコーチの指示に従っておとなしくしていた。

彼なりにとてもがんばっていることが観覧席からも見て取れた。しかしほかの生徒と同じようにプールサイドでじっと順番を待つことがしだいにできなくなっていった。勇太君はゴソゴソと体を動かし始めた。

「ああ、これはもうダメかもしれない」

母は焦り始めた。