涙がとめどなく溢れてきた
プールの中の勇太君の腕をコーチが鷲掴みにして引っ張り上げた。そのままコーチは濡れた勇太君の腕を引き、2階席の母のところまで連れてきた。
30歳くらいの精悍(せいかん)な顔つきのコーチが厳しい声で言った。
「こんな程度の低い子、何をあなたは考えている! うちで水泳を習えるわけがないでしょ! 入会はお断りします!」
事態が分からずキョトンとしている勇太君を母は抱きしめた。
「よくがんばっていたね。偉かったね。もう帰ろうね。帰りにお菓子を買ってお家で食べようね」
勇太君の着替えを済ませ建物を出ると、涙がとめどなく溢れてきた。母は心の中で勇太君に謝った。
「ごめんね、こんなふうに生んじゃって。普通の子が体験に行けば、ぜひ入会して下さいって大歓迎されるのに。障害があるためにこんな目に遭っちゃって」
母はそれでも水泳を勇太君にやらせてあげたかった。自閉症があることを前もって伝えてしまえばそれだけで入会を断られることはもうはっきりしている。
とにかく体験授業に連れていって、ありのままの勇太君を見てもらって判断してもらおうと母は考えた。
次にKスイミングスクールに行った。しかしそこでも断られた。
「入会をお受けしたいのは山々なのですが、誠に申し訳ありません。ほかの生徒さんに迷惑がかかってしまいますので、入会して頂くわけにはいかないのです」