6コースへのこだわり
そして毎週日曜日、母子はTスポーツセンターに通うようになった。
コーチは自閉症の子に理解があった。プールサイドを走り回っても、勝手な行動を取っても勇太君を見守ってくれた。そして少しずつ水泳の技術を勇太君に教えていった。
コーチは、母に対して水泳のことだけでなく、勇太君のこだわりに対してもどういうふうに対応するか相談しつつ助言をしてくれた。
だがやはり勇太君のこだわりはなかなか手強かった。勇太君が初めてプールに入ったのは、6コースだった。以来勇太君は6コースにこだわった。違うコースでは絶対に泳ごうとしなかった。
しかし水泳教室は勇太君一人ではない。どうしてもほかの子どもとの兼ね合いが出てくる。最大限配慮はしてくれたが、ある日、コーチが別のコースで泳がせた。
勇太君はパニックになった。大声を上げてプールサイドをめちゃめちゃに走った。そしてずらりと並んだベンチを次々とプールの中に投げ込んだ。
水着を脱いで真っ裸になり、シャワー室へ飛び込んだ。そこでプッシュ式の泡の出る石けんを押し出し、すべて床にぶちまけた。それでようやくパニックが収まった。