友人の会社に再就職

「そんな時、大学時代に同じサークルにいた友人・晴恵ちゃんから連絡があったんです。私が仕事を探しているという話が耳に入ったみたいで、『もしよかったら、私が働いているところに面接に来ない?』って誘ってくれたんです」

持つべきものは友人である。

「彼女は25歳のときに会社の先輩と結婚して、勤めていた流通会社を寿退社したんですけど、子供の手が離れたからって、その時は子ども服のセレクトショップで販売の仕事をしていました。店舗は3つあって、社長を含めて20人足らずの小さな会社なんですが、上質でセンスの良い品物が揃っていて、地方からもわざわざ買いに来てくれるお客様もいたりして、小さいながら売り上げは好調とのことでした。

緊張しながら面接に出向いたんですけど、社長は50歳くらいの鷹揚なタイプの男性で、気さくに対応してくれました。会社そのものがアットホームな雰囲気で、印象はとてもよかったです。ちょうど買付する人材を探していたとのことで、私にアパレル経験があったことで、すぐに採用となりました」

それは幸運でした。

「でも、夫は最初、渋ったんですよ」

なぜ?

「晴恵ちゃんのことは、同じサークルだったからもちろん知っていて、今更妻を働かせるなんて甲斐性がないと思われるのが嫌だったんじゃないかしらって、その時は思ってました。ほら、男って見栄っ張りのところがあるから」

ああ、なるほど。

久しぶりのお仕事はどうだったのだろう。

「どんな形であれ、アパレル関係の仕事に戻れたのは嬉しかったです。晴恵ちゃんと同じ職場というのも安心でしたし、世界も開けて毎日楽しかったですね。お給料はさほど高くはなかったですが、自分で稼いでいるということは、自信にもつながりました」

 

「74歳、余命1年半の宣告を受けた後、夫から不倫を告げられた。30年間隠され続けた不倫相手は…」に続く

※本稿は、『男と女:恋愛の落とし前』(新潮社)の一部を再編集したものです。


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