〈カラオケdondon〉の奥まった一室。そこは通称〈バイト・クラブ〉のための部室。ここの部員になるための資格は、【高校生の身の上で「暮らし」のためにバイトをしていること】。メンバーが集まる〈カラオケdondon〉に、思わぬ来訪者が……。

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紺野夏夫(こんのなつお) 県立赤星(あかほし)高校三年生 
〈カラオケdondon〉アルバイト店員

 三四郎(さんしろう)の担任の先生。
 つまり蘭貫(らんかん)学院の先生。
 塚原(つかはら)、りっかって言った? りっか、ってどんな字を書くんだ。全然頭に浮かんでこないけど。
 塚原先生? 
 俺と会ったことあるって? 全然わかんないんだけど。
「お母様、お元気?」
「はい、元気です」
 元気だ。たまに風邪ぐらいは引くけれど大きな病気も怪我(けが)なんかもしたことないって言ってる。今までの人生で入院したのは、俺を産んだときだけだって話をしたことある。
 塚原先生が、ちょっと微笑(ほほえ)んで皆を見回してから俺を見た。
「私、夏夫くんのお母さんとは高校が一緒なんです」
「そうなんですか?」
「え?」
 尾道(おのみち)さんが驚いてる。
「高校?」
 そうよ、って塚原先生が尾道さんに頷(うなず)く。
「じゃあ俺とも同じってことじゃないか。え、夏夫のお母さんが? 誰?」
「尾道くんは知らないと思うな。先輩だから。紺野志織(しおり)さん。私たちが一年のとき三年生だったの」
 二つ下。
 母さんの、高校の後輩。
「え、じゃあ尾道さんも母さんの高校の後輩ってことっすか」
「そうなるわね。尾道くんは面識はないだろうけど。志織さんは、高校時代は部活もやっていなかったから」
 志織さん。
 そう、母さんの名前は志織だ。
 クラシカルな名前だって自分で言ってる。でも好きなんだって。俺の夏夫って名前は、夏に生まれたからっていうものすごくシンプルな命名。母さんが付けたって言ってるけど本当かどうかはわからない。もしもあいつが名付けたんならイヤになるけど。
 そのうちに名前を変えてやろうかって思うけど。