「紺野志織さんか。確かに、全然知らない名前だ。先輩か。塚原は、何でその人と知り合いになったの」
「まぁ、たまたま、かな。実家もそんなには離れていないところだったし、同じバスで学校に通っていたし。だからって幼馴染(おさななじ)みってことでもないけれど」
 たまたま。
 幼馴染みじゃないけど、一緒のバスに乗るぐらいには家が近所。
 何となくだけど、少し言い難そうな感じで言ったから、あんまり人には言えない感じで知り合ったとか、出会ったってことなのか。
 でも、小学校のときの俺には会ったことあるってことは。
 それってひょっとしたら。
「すみません、全然覚えていないんですけど、何年生のときに会ったんですか? 俺と」
 うん、って頷いた。
「まだ小学校の一年生ぐらいだったかな。あ、でも会ったことあるとするなら、まだ赤ちゃんの頃にも何度か顔を見たことはあるんだけど。初めてちょっとお話しするぐらいに長い時間会っていたのは、一年生とか二年生ぐらいのときだったかな」
「そうなんですか」
 じゃあ、俺が赤ん坊のときに、家に来たこともあるってことかな。それとも外に出たときにバッタリ会ったとかか。
 訊(き)いてみるか。
「じゃあ、俺の父親のことも知っているんですか」
 一瞬だけど、先生の眼に何かが浮かんだような気がした。ほんの一瞬。
 ちょっと躊躇(ためら)うのが、わかった。
「うん。知っている、かな。直接の知り合いってわけでもないんだけど、会ったことは、あるかな」