時事問題から身のまわりのこと、『婦人公論』本誌記事への感想など、愛読者からのお手紙を紹介する「読者のひろば」。たくさんの記事が掲載される婦人公論のなかでも、人気の高いコーナーの一つです。今回ご紹介するのは三重県の60代の方からのお便り。明け方、愛犬たちのけたたましい吠え声で目を覚ますと、ベットの脇に人影が――。
ベッド脇に立つ人は
「ウゥウー、ワワワワン!」
明け方の静寂が愛犬2頭のけたたましい吠え声で破られた。ハッと目を覚ました私が見たのは、夫のベッド脇に立つ男性の姿。
夫婦のベッドの間のケージ内で、ワンコたちが飛びつかんばかりに威嚇している。男性はまったくひるむことなく、すーっとドアから部屋を出て行った。
ワンコたちは拍子抜けしたように静かになる。私はトイレに立った夫を、寝ぼけて見間違えたのだろうと思った。ところがその直後、夫のベッドが軋み、トイレに行ったはずの夫がムクッと起き上がるではないか。
私はいぶかりながら、「今トイレに行ったよね?」と尋ねた。すると夫はキョトンとして、「え? 行ってないよ。今起きたばかり。そういえば、さっき珍しくワンコたちが吠えてたけど何だったの?」と言う。私は絶句した。
よく考えると愛犬たちは夜中に私たちがトイレに起きても吠えたことなどない。さらに、男性が部屋を出て行く時、ドアを開ける気配がまったくなかった。
翌日の夜。近所に住む夫の叔母から電話があった。叔母の息子、つまり夫のいとこが前日の明け方に脳出血で倒れ、緊急手術を受けたが容態はかなりよくないという。私はハッとした。
明け方に現れたあの男性はいとこだったのではないか。彼は夫と雰囲気が似ている。いわゆる「幽体離脱」をして、フワーッと漂ってきたのでは……。
彼はいまだに意識を取り戻していない。あの夜の男性の姿と愛犬たちの声は、私の脳裏にこびりついたままである。