2008年に『臨床真理』で「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、デビュー。『孤狼の血』『盤上の向日葵』などミステリー、サスペンス作品を発表してきた作家の柚月裕子さん。「今まで書いたことのない小説を」という担当者からのリクエストに、初の家族小説にチャレンジしたと語ります。2人の子を持つ母親でもある柚月さんは、どの家族にもあるちょっとしたひび割れの、もやっとした感じを丁寧に描きたかったそうで――(構成:内藤麻里子 撮影:本社・奥西義和)
親子の《ひび割れ》の正体
40歳でデビューしてからこれまで、『孤狼の血』や『盤上の向日葵』などミステリー、サスペンス作品を手がけてきましたが、今回の『風に立つ』は、初の家族小説です。しかも初めて生まれ故郷の岩手を舞台にしました。
書くにあたって、担当者に「今までに書いたことのない小説を」と言われて。そういうご提案がないと書かないテーマと舞台になりました。
物語は、非行少年の庄司春斗(しょうじはると)を盛岡で南部鉄器工房を営む小原(おばら)家が補導委託で預かるところから始まります。
「補導委託」は、問題を起こして家庭裁判所に送られた少年を、民間のボランティアが一定期間預かる制度。家裁調査官の修習生が主人公の『あしたの君へ』の取材で知って興味をひかれ、いつか描いてみたかったんです。
春斗の鬱屈の原因は、やがて親とのすれ違いにあることがわかってきます。ところが受け入れる小原家にも、父と息子のすれ違いがある。誰もが一度は家族について悩んだことはあると思います。
小原家の息子・悟(さとる)は父を理解できず、ぎこちなく固まっている状態。そこに春斗という存在が入ってくることで、悟たち親子にも変化が生まれる設定にしたかったのです。