「僕は、どちらかと言えば大勢が出る群像劇より、一人芝居とか二人芝居とかが好きですね」(撮影:岡本隆史)
〈発売中の『婦人公論』6月号から記事を先出し!〉演劇の世界で時代を切り拓き、第一線を走り続ける名優たち。その人生に訪れた「3つの転機」とは――。半世紀にわたり彼らの仕事を見つめ、綴ってきた、エッセイストの関容子が聞く。第29回は俳優の長塚京三さん。CMのブレイクで〈理想の上司〉として人気となった長塚さん。コロナ禍をきっかけに、軽井沢の別荘で静かに過ごす時間が増えたそうで――。

<前編よりつづく

「理想の上司」のイメージが

第2の転機となるのは意外なことに、サントリーオールドのCM(95年)でブレイクしたことだという。その後、JR東海のCM「そうだ京都、行こう。」の味のあるナレーションでも親しまれた。

――あのサントリーオールドのCM。夕暮れの街をスーツ姿の僕と、部下の若い女性とが連れ立って歩いていて、「私、課長の背中を見るのが好きなんです」と言われて、そのあと嬉しそうにピョンと跳ねる後ろ姿。あれが評判を呼びましてね。シチュエーションを変えてシリーズ化され、毎年放送されました。

これで「理想の上司」のイメージが固まったみたいで、CMを監督した市川準さんとはその後も映画を撮りましたし、また、篠田正浩監督がCMを見て、『瀬戸内ムーンライト・セレナーデ』(97年)の主役を「長塚で行こう」って話になったと聞きましたからね。

これは戦死した長男の遺骨を故郷の墓に納めるための家族旅行の話で、僕の奥さん役は岩下志麻さんでした。