地図を読む上で欠かせない、「地図記号」。2019年には「自然災害伝承碑」の記号が追加されるなど、社会の変化に応じて増減しているようです。半世紀をかけて古今東西の地図や時刻表、旅行ガイドブックなどを集めてきた「地図バカ」こと地図研究家の今尾恵介さんいわく、「地図というものは端的に表現するなら『この世を記号化したもの』だ」とのこと。今尾さんいわく、「日本の川の長さを確定させるという趣旨の会議に参加したことがある」そうで――。
川はどこからどこまでか
日本一の長さを誇る信濃川は「全長367キロメートル」というが、この数値は何に基づくものだろうか。
いずれにせよ、かなり以前から同じ数字なので、ある時点で誰かが地形図を丹念になぞりながら、手作業で出した数値だろう。
蛇行した部分をショートカットして数字が実態からかけ離れてはまずいが、少しぐらい違っても誰かが不利益を蒙るわけでもないから放置され、今となっては不正確という話も聞く。
そんなわけで、「日本の川の長さを確定させる」という趣旨の会議に参加したことがある。
まず議論になったのは「川はどこからどこまでか」。これは簡単なようで実は難しい。そもそも水源とはどこか。普通に考えれば常時水が流れ始めている場所なのかもしれないが、すると「常時」とか「流れる」をどう定義するか決めなければならない。
ポタポタはダメでチョロチョロはOKか。地形で判断するなら「分水界の尾根」が起点かもしれないが、相模川(山梨県内では桂川)の水源を富士山頂にしてしまえば実態とかけ離れてしまう。それなら始点は地形図上の青線の川にするか……。
終点である河口も定義が必要だ。埋め立てや干拓による地形の改変の事情もあるし、中洲(なかす)などは人工と自然の境界がはっきりしないこともあるし、漏斗(ろうと)状を呈する河口(エスチュアリー)も難しい。
そのあたりに深入りするとなかなか記号の話にならないので切り上げるとして、そもそも川は地形図上でどのように描かれているだろうか。