山里の古民家で美しい花々やハーブを育て、手作り暮らしを楽しんでいたベニシア・スタンリー・スミスさんが、2023年6月に死去しました。梶山正さんは妻の介護をとおし、学んだことがあったと話します(取材・文:野田敦子 写真提供:梶山正)
「私が死ぬ家を見つけた! 」
比叡山の山裾に広がる京都・大原。ベニシアさんと梶山正さんの家は、里山の自然にしっとりと溶け込むように立っていた。窓を開け放った気持ちのいい和室へと迎え入れてくれた梶山さんの向こうには、テレビで見覚えのある風情豊かな違い棚と床の間。
今、それらの空間を埋め尽くしているのは、梶山さんが撮影した大小さまざまなベニシアさんの写真だ。どこからか、あの落ち着いた声が聞こえてきそうな気配が部屋全体を満たしている。
「息子の悠仁(ゆうじん)はベニシアが亡くなる前、よく枕元で『ママ、アイラブユー』と言ってました。僕は、そういうのが苦手で(笑)。『おはよう』『何か飲みたい?』なんて普通の会話ばかり。今になって毎日、写真に向かって伝えていますよ。やっぱり生きているときに言わんとあかんね」
ベニシアさんは、昨年の夏至の朝、静かに息を引き取った。初めてこの家に足を踏み入れてから27年。「ついに私が死ぬ家を見つけた!」と宣言した自分との約束を守るかのようだった。