(写真はイメージ。写真提供:Photo AC)
「今日、歴史と文化がますます情報戦の武器となり、政治的な動員のための旗幟となっている」――。そう語るのは、評論家・近現代史研究者として各国の博物館や史跡を調査する辻田真佐憲さんです。今回は、辻田さんが約2年半におよび国内外の「国威発揚」をめぐった成果をまとめた『ルポ 国威発揚-「再プロパガンダ化」する世界を歩く』から、米国・トランプタワーについてお届けします。

トランプの本拠地に潜入する

米国/トランプタワー(2024年5月訪問)

「アメリカを取り戻す!」(TAKE AMERICA BACK!)

大きな赤い旗に記された勇ましいスローガンに、わたしはまず安倍元首相の「日本を、取り戻す」を思い浮かべた。

トランプタワーの土産物店「ロジャーズ・ニューズ」(写真:『ルポ 国威発揚-「再プロパガンダ化」する世界を歩く』より)

ここはニューヨークにあるトランプタワーの地下1階、トイレの脇にたたずむ小さな土産物店「ロジャーズ・ニューズ」。

ガラス越しに店内をうかがうと、ひとがすれ違えないほど狭い通路の両脇に、トランプ前大統領(取材時。以下敬称略)のグッズがびっしりと並べられていた。先客は3名ほど。思い切って踏み入ると、そこは思っていた以上にトランプ一色の空間だった。

トランプがニッコリ笑うマグカップ、14.95ドル。「まだ俺が恋しい?」と書かれた靴下、14.99ドル。トランプがボクサーに扮した人形、40ドル。1ドル150円の時代には、どれもびっくりするぐらい値が張る。

それでも売れるのか、種類はたいへん豊富だった。マグネット、メガネケース、栓抜き、シャツ、パーカー。一般的なニューヨーク土産も売っていたが、やはりトランプの存在感のまえには霞んでしまっていた。

トランプの頭がついた「ドナルド・トーキング・ペン」は、頭を押すと8種類の音声が再生される。試すと「見ろ、俺はマジで金持ちだ」「俺はヅラをつけていない。これは地毛だ。本当だ」などという声が店内に響いた。周りは熱烈なトランプ支持者かもしれないのに、思わず噴き出してしまった。

もちろん、トランプ自身よく被る赤い帽子も大量に陳列されていた。正面には「アメリカをふたたび偉大にしよう」(MAKE AMERICA GREAT AGAIN)の文字。「MAGA」と省略されたバージョンもある。そして向かって左側には「45-47」の数字。第45代に続き、第47代の大統領にも就任するぞという意気込みなのだろう。