佐藤弘道さんと妻の久美子さん(撮影:清水朝子)
《体操のひろみちお兄さん》こと佐藤弘道さんが脊髄梗塞で緊急入院という報道が流れたのは2024年6月。下半身麻痺から奇跡的な回復を遂げ、2ヵ月という異例の早さで退院した。絶望からどのように立ち上がり、家族はいかに支えたのか。夫婦が心境を語った(構成=菊池亜希子 撮影=清水朝子)

前編よりつづく

暮らしは不便なほうがいい!?

弘道 そのころには肘で固定する1本杖で何とか歩けるようになっていて、リハビリ病院には杖と自分の足で行った。そしたら出迎えてくれた理学療法士さんが「その杖、貸してください」って取り上げて、「今日からは杖なしでいきましょう」って。

久美子 あれは驚いたよね。あなたは不安そうだったけど、私も息子たちも喜んだのよ。

弘道 理学療法士さんは毎回、ニコニコしながら課題を与えてくれるんだけど、これがいちいちピンポイントで痛いとこを突いてくる。僕は背骨下部の太い神経をやられていたから、平衡感覚がなかったんだよね。目をつぶって立つとか、片膝立ちができなかった。できない動きを片っ端から一つずつ、できるまで続けたよ。

久美子 1日に3時間は理学療法士さんとみっちりリハビリが組まれてたのに、それ以外にも一人で何かしらしてたよね。

弘道 自主トレ大好き(笑)。院内のトレッドミルを借りたし、病室のフロアにあったエアロバイクも、毎日漕いでた。

久美子 リハビリ病院では、私も本当に勉強させてもらったの。退院に備えて、自宅に手すりをつけたり、段差をなくすことを考えていたけれど、すべて理学療法士さんにダメ出しされた。「不便なことがリハビリなんです。甘やかしたらダメ」って。目から鱗だったわ。私たち家族はリハビリ病院でしっかりリハビリを続けるのがいいと思ってたけど、弘道さんは違ったのよね。