「当初の母の思いは、あくまでも本業は保母。お話を考えるのは、子どもたちを喜ばせたいからでした」(撮影:大河内禎)
絵本「ぐりとぐら」シリーズや、アニメ映画『となりのトトロ』の主題歌「さんぽ」の作詞などで知られる児童文学作家の中川李枝子さんが、2024年10月14日、老衰のため亡くなりました。享年89。息子の画太(かくた)さんが、母との思い出を語ります(構成:田中有 撮影:大河内禎)

保育園の一間に3人で住んでいた

母・李枝子が、9月はじめに入院しそのまま亡くなって、2週間と少しが経ちました。

入院していた約40日の間、ほぼ毎日顔を見に行ったのですが、眠っている傍らで語りかけるだけの日がだんだん増えて。今は、あの日々が終わったんだな……という感じです。

母はもともと、東京都世田谷区の無認可保育所「みどり保育園」の保母(保育士)でした。1950年代、後に駒沢オリンピック公園となる広大な敷地の片隅に建った《小屋》が、みどり保育園の始まりです。都立保母学院を出たばかりなのに《主任保母》となった彼女は、子どもたちをいかに楽しませるか、日々夢中になっていました。

幼い頃から無類の本好きだった母は、仕事の傍ら、児童文学の同人会に参加。園での子どもたちとの毎日に題材を得て同人誌に発表したのが『いやいやえん』でした。まだ結婚前でしたが、後に僕の父となる画家の宗弥(そうや)は、一読して「これは食わせてもらえる」と思ったのだそうです。(笑)

『いやいやえん』は作家・石井桃子先生の目にとまり、出版されることになります。挿絵は母の6歳下の妹、故・山脇(当時は大村)百合子が、「姉に言われて」描くと決まりました。

当時姉妹が住んでいた実家へ、みどり保育園に通う男の子一人にお泊まりしてもらってモデルとし、百合子叔母はつきっきりで観察、デッサンしたそうです。石井先生のご自宅まで姉妹で何日も通い、添削してもらった日々が、「本当に楽しかった」と、母は話していました。